日本遺産の地を旅する~旧閑谷学校と「きっと恋する六古窯」備前焼の里
岡山県では平成27年度の旧閑谷学校「近世日本の教育遺産群~学ぶ心・礼節の本源~」に引き続き、平成29年には備前市の「きっと恋する六古窯~日本生まれ日本育ちのやきもの産地~」が文化庁の日本遺産に認定されました。
六古窯とは日本古来の陶磁器窯のうち、現在まで生産が続けられている代表的な6つの窯(備前、瀬戸、越前、常滑、信楽、丹波)の総称で、日本の技術、伝統を古くから継承している日本独自の焼き物のことです。
六古窯には、唯一釉薬(ゆうやく)が掛けられた優雅さと逞しさを兼ね備える瀬戸焼、明るく健康的な信楽焼、質朴で釉流れの美しい丹波焼、豪快で無骨な常滑焼や越前焼、そして堅牢で堂々とした備前焼がありますが、いずれも日本らしい焼き物として多くの人々の心をとりこにしてきました。
今回は岡山県倉敷市の「倉紡記念館」を訪ねた帰りに、閑谷学校の屋根瓦にも使われている備前焼の里に立ち寄りました。
閑谷学校は岡山藩主、池田光政が造った日本最古の庶民のための公立学校で、実際の建設は日本のレオナルド・ダ・ヴィンチと称される津田永忠(ながただ)が担当して備前焼の屋根瓦が約2万枚も使われています。
備前焼の里、伊部地区の天津神社と備前焼の歴史
備前地域では、神社の境内で備前焼の宮獅子(狛犬)を多く見かけますが、これは江戸時代後半から近代にかけて窯元の主力商品として出荷され、全国的に流通した焼き物です。
備前焼の神社として有名な伊部(いんべ)町の天津(あまつ)神社の鳥居の両脇にも、立派な備前焼の狛犬が鎮座しています。
この天神神社は備前焼の作家、窯元ゆかりの寺社で、備前焼が多く寄進されており、参道の塀には備前焼のいろいろな陶板作品が埋め込まれ、門の屋根瓦などにも備前焼が使用されています。
神社の入り口でそぞろ歩く人々を見守っている陶製の狛犬や陶器で装飾された橋などは、いかにも窯業の街ならではの風情を醸し出しています。
この備前焼の里として知られる備前市伊部地区には、レンガ作りの赤い煙突が立つ窯元やギャラリーも多く点在していますが、昔ながらの風景に溶け込むように並べられた店頭の備前焼は、変化に富んでいて人の心と同じだと感じました。
瀬戸内市から備前市南部には、古墳時代から平安時代にかけての須恵器窯跡が各地に点在し、「邑久古窯址群(おくこようしぐん)」と呼ばれていますが、この須恵器が現在の備前焼に発展したと考えられています。
そして八世紀になると備前市佐山に窯が築かれ始め、十二世紀になって伊部地区にも窯が本格的に築かれ、備前焼として独自の発展をとげたのです。
鎌倉時代後期には酸化焼成により、現在と同様の茶褐色で実用本位の水瓶などの陶器が焼かれ、当時の作品は「古備前」と呼ばれて「落としても壊れない」との評判から珍重されています。
室町・桃山時代には、茶道の発展とともに茶陶が主流となりましたが、江戸時代に茶道の衰退とともに衰え、備前焼は再び水瓶やスリ鉢、酒徳利など実用品の生産に戻りました。
しかし、昭和の時代に入ると、金重陶陽らが桃山時代の陶への回帰をはかり、芸術性を高めて備前焼の人気を復興させました。
陶陽は重要無形文化財「備前焼」の保持者(人間国宝)に認定され、弟子達からも人間国宝を輩出し、備前焼の人気は不動のものとなりました。
備前焼の特徴と登り窯の跡
備前焼の魅力である茶褐色の地肌は、「田土(ひよせ)」と呼ばれるたんぼの底(5m以上掘る場合もある)から掘り起こした土と、山土・黒土を混ぜ合わせた鉄分を多く含む土とを焼くことによって現出します。
私は備前焼の「使い込むほどに味が出る」と言われ、派手さはありませんが飽きがこないデザインが気に入っていて、この機会に実際に焼かれていた窯跡を見てみたいと「印部南大窯跡」を訪ねました。
「伊部南大窯跡」は全長53.8m、幅5.5mの巨大な窯の跡で、これは室町時代末期に築かれて江戸時代には岡山藩の保護と管理のもとで、幕末まで操業していた登り窯の跡です。
伊部駅からは茶色の山のようにしか見えませんが、現場に来てみるとすべてが陶器片の山で、かなり大掛かりな窯跡が残っており、これこそ備前の主要観光地にすべき場所だと思いました。
また、備前の案内地図には「伊部北大窯跡」の記載もあったので、南大窯跡を見学した後、実際に行ってみましたが、こちらは伊部駅の北約300メートルの不老山南麓、忌部(いんべ)神社近くにありましたが、窯跡は天津神社から忌部神社へ至る道によって分断されており、わかりにくくなっています。
しかし、忌部神社奥の展望台からの眺めは備前市街全景を見渡せる絶好の場所で、忌部神社も備前焼の繁栄、作陶の上達にご利益があるとされていますので、陶芸に関心のある方は天津神社とともに忌部神社参拝もおすすめします。
きっと恋する六古窯-日本生まれ日本育ちのやきもの産地-
日本遺産ストーリー 〔岡山県:備前市〕
瀬戸、越前、常滑、信楽、丹波、備前のやきものは「日本六古窯」と呼ばれ、縄文から続いた世界に誇る日本古来の技術を継承している、
日本生まれ日本育ちの、生粋のやきもの産地である。
中世から今も連綿とやきものづくりが続くまちは、丘陵地に残る大小様々の窯跡や工房へ続く細い坂道が迷路のように入り組んでいる。
恋しい人を探すように煙突の煙を目印に陶片や窯道具を利用した塀沿いに進めば、「わび・さび」の世界へと自然と誘い込まれ、
時空を超えてセピア調の日本の原風景に出合うことができる。